
取り直しは、いったん成立して終わった取組について、物言いの協議で両者同体と判断されたとき、改めて相撲を取って勝敗を決めることです。立合いが成立する前へ戻る「待った」とは別物。最初の一番が反則や失敗として無効になったと決めつけず、二人の体が同時に土俵外へ出た、または同時に着いたため一方を勝者にできなかった、と理解するのが入口です。
一度あれほど激しくぶつかった二人が、また塩を取り、呼吸を整え、最初から向き合う。取り直しはルール説明だけなら短いのに、観戦すると妙に胸が高鳴ります。同じ二人、同じ土俵でも、二度目は同じ相撲になるとは限らないからです。
取り直しまでの順番
通常は、取組が終わると行司がどちらかへ軍配を上げます。その判定に物言いがつくと、審判委員が土俵上で協議し、ビデオ室と連絡を取りながら映像も参考にします。日本相撲協会の公式解説では、協議の結論として、軍配通り、軍配差し違い、両者同体による取り直しが示されています。
つまり取り直しは、客席の盛り上がりに応じて追加されるサービスでも、力士が自分から要求する再挑戦でもありません。勝負判定の手続きを経た正式な結論です。
「待った」と取り直しは、戻る地点が違う
見た目はどちらも「もう一度」ですが、意味ははっきり違います。
- 待った・仕切り直し:呼吸が合わない、手つきが不十分など、立合いが成立する前へ戻る
- 取り直し:成立した一番を終えたが、同体で勝者を分けられず、新しい一番を取る
待ったではまだ決着を争う有効な取組が始まっていません。取り直しでは、最初の取組を最後まで見たうえで、それでも勝敗を一方へ決められなかったのです。会場で迷ったら、「物言いの協議と審判長の説明があったか」を手掛かりにできます。
引き分けをそのまま記録する制度とも違う
日本相撲協会の歴史解説によると、大正14年(1925年)11月に引き分けや「預かり」が廃止され、取り直し制度へ改められました。現在の取り直しは、曖昧なまま終えるのではなく、もう一番を行って勝者を決める方向の仕組みです。
同じ公式解説は、取組中の負傷や病気の悪化などで、その後の取り直しを続けられないときに宣告される「痛み分け」にも触れています。ただし、これはけがが見えたら観客が判断できるという意味ではありません。公式発表がない段階で、力士の状態や結論を推測しないことが大切です。
二度目は「最初の一歩」だけ比べる
取り直しになったら、最初の一番を忘れる必要はありません。むしろ二度目の立合いで、最初の一歩が変わったかを見てみます。一度目にまわしを狙った側が今度は押したか。土俵際まで下がった側が低く前へ出たか。相手に見せた手を、もう一度使うのか外すのか。
短い間に相手も自分も一度学んでいる。そんな二人が、疲れと記憶を持ったままもう一度ゼロを作るのが取り直しです。決まり手を全部知らなくても、最初の一歩の違いだけで、二度の一番がまるで別の物語に見えてきます。
出典
- 日本相撲協会「大相撲クイズNo.559、No.829、No.38」(2026年9月2日確認)
確認に使った資料リンク
各リンクは記事内の対応する主張の確認に使用しました。リンク先全体を無条件に正しいとみなすものではありません。
記事確認日:
- 日本相撲協会 大相撲クイズNo.559(両者同体と取り直し)過去の一次資料(当時の記録)
- 日本相撲協会 大相撲クイズNo.829(預かり廃止と取り直し制度)過去の一次資料(当時の記録)
- 日本相撲協会 大相撲クイズNo.38(立合いと仕切り直し)過去の一次資料(当時の記録)